「既製品では痒いところに手が届かない」

法律事務所でのAI活用は、既製のAIリーガルサービス(LegalForce、AI-CONなど)を使うか、汎用LLMを使うかという選択肢が一般的だ。しかしE法律事務所の弁護士・藤原氏(仮名)は第三の道を選んだ——Claude Codeで自前のツールを作ることだ。

「既製のリーガルAIは、自事務所が専門とする分野の契約書に特化したチェックが難しい。私の事務所はM&AとIT系の契約が多いのですが、そういう特殊なチェック項目には既製品は対応しきれない」と藤原氏は語る。

Claude Codeを使って実際に何を作り、どう活用しているのか、詳しく聞いた。

作ったツールの概要

藤原氏がClaude Codeで開発したのは、契約書PDF・Wordファイルを入力すると、自事務所独自のチェックリストに基づいてリスク項目を抽出・レポートするPythonスクリプトだ。

主な機能は以下の通り。

  • 契約書のPDF/Wordを読み込み、テキストを抽出
  • 事前に定義したチェック項目(100項目以上)を照合
  • リスクの高さをHigh/Medium/Lowで分類
  • 条文番号と問題の内容をMarkdown形式でレポート出力
  • 「確認が必要な箇所」のみを抽出して弁護士に提示

プログラミング経験がほとんどなかった藤原氏が、Claude Codeに指示を出しながら約2週間で動くものを作り上げた。

Claude Codeでの開発プロセス

まずチェックリストをドキュメント化する

開発の最初のステップは、プログラミングではなく「自分がどんな契約書チェックをしているか」の言語化だった。藤原氏は自分の業務を観察しながら、チェックポイントを箇条書きにまとめた。

M&A契約書のチェック項目の例:

  • 表明保証条項に漏れがないか(特にIP、訴訟リスク、財務諸表)
  • 補償条項の上限額は適切か
  • クロージング条件の曖昧さはないか
  • 競業避止義務の期間・範囲は合理的か
  • 準拠法と裁判管轄の記載はあるか

このリストをClaude Codeに渡し、「このリストに基づいて契約書をチェックするPythonスクリプトを作ってほしい」と依頼するところから開発がスタートした。

Claude Codeとのやり取りのコツ

藤原氏がClaude Codeを使って感じたのは「エラーが出ても諦めなくていい」という点だ。

「最初は動かないコードが出てくることも多かった。でもエラーメッセージをそのままClaudeに貼り付けると、原因を説明しながら修正してくれる。これを繰り返すうちに動くようになった」

PDFのテキスト抽出にはPyMuPDFというライブラリを使ったが、日本語の縦書き契約書で文字化けが起きる問題が発生。Claude Codeに相談したところ、pdfplumberへの切り替えと文字コード処理の修正案を提示してくれた。

Claude APIを組み込む

チェックリストとのルールベースのマッチングだけでなく、「文脈を理解した上でのリスク判断」も必要だったため、スクリプト内でClaude APIを呼び出す仕組みを実装した。

具体的には、条文ごとにClaude APIに以下のような判断を依頼している。

以下の条文は、[チェック項目名]の観点からリスクがありますか?
リスクがある場合、そのリスクの内容と深刻度(High/Medium/Low)を答えてください。
[条文テキスト]

この仕組みにより、単純なキーワードマッチングでは検出できない文脈的なリスクも拾えるようになった。

実際のレビューフローへの組み込み

現在の藤原氏の契約書レビューフローは以下の通りだ。

  1. 依頼人から契約書を受け取る
  2. ツールを実行し、レポートを生成(所要時間:1〜3分)
  3. レポートを見ながら「High」判定の箇所を優先的に精査
  4. ツールが見落とした点がないか全文確認
  5. 意見書・修正案を作成

「ツールが拾ったリスク項目を最初に見ることで、どこに集中すべきかが一目でわかる。初読のフォーカスが定まるのが一番の効果です」と藤原氏は話す。

レビューの総時間は短縮されたが、「AIの出力を鵜呑みにせず、必ず自分の目で最終確認する」という姿勢は変えていない。

コストと精度

Claude APIの利用料金は、1件の契約書(約30〜40ページ)のチェックで約80〜150円(トークン量による)。月間20〜30件処理しても月額3,000〜4,500円程度で、既製リーガルAIサービスの月額費用と比較してはるかに安価だ。

精度については、「既存のチェックリストで検出できていた項目は90%以上カバーできている」という体感だという。ただしAIによる誤検知(問題ないのにリスクと判断する)も発生するため、Highと判定された項目でも弁護士の目で確認することは省略しない。

まとめ

法律事務所がAIを内製化する場合、既製品SaaSを購入するより自前でツールを作る方が、特定業務への最適化と費用対効果の両面で優れる場合がある。Claude Codeはプログラミング未経験の弁護士でも使えるレベルに達しており、「自分の業務を言語化する力」があれば開発を進められる。

重要なのは、AIをレビューの補助として位置づけ、最終判断は人間が行うという原則を守ることだ。AIが見落とした点を人間が補う体制を整えた上で使うことが、実務での信頼性を担保する。