製品問い合わせ対応の「繰り返し」をAIに任せる

住宅設備メーカーや販売代理店のカスタマーサポートには、毎日同じような問い合わせが届く。「このキッチンのシンクの深さは?」「食洗機はオプションで後付けできますか?」「保証期間はどれくらい?」——担当者が毎回マニュアルを引きながら答えるのは、効率が悪い。

C社(システムキッチンの製造・販売、従業員200名)では、DifyとClaude APIを組み合わせたAIチャットボットを自社サイトとショールームの受付タブレットに導入し、1日約60件の問い合わせのうち70%をAIが自動応答できるようにした。

この記事では、その構築手順と運用時の注意点を紹介する。

なぜDify + Claudeを選んだか

C社がチャットボット構築で検討したのは以下の選択肢だった。

  • 既製品のチャットボットSaaS(Intercom、Zendesk等)
  • LINEチャットボット
  • Dify(オープンソースのLLMアプリ構築フレームワーク)+ Claude API

既製品SaaSは製品知識のカスタマイズに制限があり、月額費用も高かった。LINEは顧客がアカウント登録しないといけないため離脱率が高い。

Difyを選んだ理由は、社内の製品PDFや仕様書を直接ナレッジベースとして取り込めること、Claude APIと簡単に接続できること、そしてノーコードに近い操作感で非エンジニアでも管理できることだった。

構築ステップ

ステップ1: ナレッジベースの準備

まず自社の製品Q&Aドキュメントを整理した。既存のPDFカタログ、技術資料、よくある問い合わせをまとめたExcelを用意し、Difyのナレッジベース機能に取り込んだ。

ポイントは「AIが答えてよい質問」と「人間に転送すべき質問」を事前に定義することだ。C社の場合、以下を基準にした。

AIが答えてよい質問の例:

  • 製品のサイズ・素材・機能に関する仕様確認
  • 標準保証期間の案内
  • ショールームの場所・営業時間
  • 一般的な手入れ方法

人間に転送する質問の例:

  • クレーム・不具合報告
  • 見積もり・価格交渉
  • 施工・工事に関する詳細相談
  • 個別の納期確認

ステップ2: Difyでアプリを設定する

Difyにアカウントを作成し(クラウド版は無料プランあり)、以下の手順でアプリを構築した。

  1. 「チャットボット」アプリを新規作成
  2. 「モデル」設定でClaude API(claude-3-5-sonnet)を接続
  3. システムプロンプトにC社のブランドトーンと応答ルールを設定
  4. ナレッジベースを作成し、製品資料をアップロード
  5. テスト会話で精度を確認し、システムプロンプトを調整

システムプロンプトには以下のような指示を盛り込んだ。

あなたは[C社名]の製品サポートアシスタントです。
提供されたナレッジベースに基づいて回答してください。
不明な点や確信が持てない場合は「担当者にお繋ぎします」と答え、
絶対に推測で回答しないでください。
保証・修理・クレームに関する問い合わせは必ず人間の担当者に転送してください。

ステップ3: 自社サイトへの埋め込み

Difyが生成する埋め込みコードをウェブサイトのHTMLに追加するだけで、チャットウィジェットが表示される。C社のウェブ担当者が30分で設置できた。

ステップ4: 人間への引き継ぎフローを設計する

AIが答えられない質問や、クレームを検知した場合の対応フローが重要だ。C社では以下を設定した。

  • AIが「担当者に繋ぎます」と返答した場合、入力フォームを表示してメールアドレスと内容を収集
  • 収集した内容をSlackのサポートチャンネルに自動通知(ZapierでDify→Slackを連携)
  • 営業時間外は翌営業日に折り返す旨をAIが案内

運用3か月の数字

C社が3か月後に測定した結果は以下の通りだ。

  • 1日の問い合わせ件数:約60件
  • AIが自動応答できた割合:約70%(42件)
  • 担当者が対応した件数:約18件(従来は60件すべて)
  • 問い合わせ対応の平均応答時間:8時間 → 即時(AIが対応した分)
  • 顧客満足度(アンケート):対応速度の満足度が前年比でアップ

担当者の工数は1日あたり約3時間削減された。削減分はより複雑なクレーム対応や提案活動に充てられている。

注意点と限界

ハルシネーション(でたらめな回答)対策

LLMはナレッジベースにない情報を尋ねられると、もっともらしい嘘をつくことがある。C社では「ナレッジベースに答えがなければ答えない」というルールをシステムプロンプトで徹底し、定期的にチャット履歴を確認して誤回答がないか監視している。

製品の更新に追従する

製品ラインナップが変わるたびにナレッジベースを更新する必要がある。C社では月1回、製品担当者がDifyのナレッジベースを更新するルーティンを設けた。

免責表示を忘れない

チャットボットの画面に「本チャットは参考情報の提供を目的としています。詳細・最終確認は担当者にお問い合わせください」という免責文を表示している。

まとめ

Dify + Claude APIの組み合わせは、エンジニア不要でも高精度なQ&Aチャットボットを構築できる現実的な選択肢だ。導入の鍵は「何をAIに任せて何を人間が対応するか」の設計と、ナレッジベースの品質管理にある。製品情報が整備されている住宅設備メーカーであれば、1〜2週間で稼働させることも十分可能だ。